私は腹部をまさぐるくすぐったさに体をよじった。
反射的にブレザーの下に手を入れお腹を抑えると、そこは動いていた。
(やだぁ……何コレ……)
腸が活発に動いているようにも思えた。
でもきちんとスカートにしまいこんだワイシャツの上からでも、もぞもぞとする動きが解かるなんておかしい。
空腹時に胃が形をくねらせながら食べ物を求めて音を出す運動にも似ていたが、いかんせん場所は下腹部。
私は周囲の目を気にしながら、校門をくぐった。
今日から十一月だというのに、寒くは無い。
コートを着る必要も無く、ブレザーの中にニットのベストを着ているだけで十分だった。最近お気に入りになったバーバリーのマフラーを首に巻くのはもう当たり前だけど。
担任が教室に入ってくるこの時間でも、はしゃいで話しながら登校する生徒達で下駄箱は込み合っていた。
「おはよう」
上履きに履き替える私は、誰かが後ろからマフラーを引っ張っている事に気付いて振り返った。
「あ、おはよ、宮本君」
そこにはいつものように白い歯を見せて満面の笑みを浮かべるクラスメイトの宮本君がいた。
髪は整えた様子も無くボサボサだが、どんな髪型も格好良く見えてしまう男の子だった。
彼は私のマフラーの先を放して言った。
「今日は珍しく遅いじゃん。朝練無かったの」
「う〜ん……今朝は何だか体調悪くて」
申し訳ない気がしながらも、私は正直に答えた。
一緒に帰るだけではなく朝も一緒に登校しようと言う彼に、私は部活の朝練があるからと断っていたのだ。
彼とは半年近く付き合っている。
宮本君は去年の今頃、一年の二学期に転入して来た生徒だった。
転校は三回目だという。そのせいか、クラスの生徒は彼に近づかなかった。
何かヤバイ事をしているから、高校を転々としているのだと。
……そう思われても仕方無いのかもしれない。
彼の雰囲気は特別なものがあったし、容姿も整い過ぎていた。
スッとした鼻筋にかかる前髪の間から覗く両目の色が薄くて、たまに赤いのではないかとさえ思う。睫はビューラーでカールしたみたいに長くて目立つ。
その双眸が彼の美しさを際立たせるのに一役買っていた。
彼のぎくりとするような独特な笑顔は、本当にやましい事をしている人間には胸に突き刺さるのだ。
宮本君のような人間の方が周りからは疎外されるものなのだった。
友達はやめときなと言った。
それは嫉妬かもしれないし、本当に危険な香りがしたからかもしれない。
女友達の助言なんて、どういうつもりで言ってるのか本当は解らない。
でも彼は極めて普通の男の子で、その辺にいる生徒と同じだった。わりと服装に気を使うし、放課後はゲーセンに行くし結構だらしないし…。
私は何よりも彼の笑顔が好きだった。
私はクラス委員として彼に校内を教えるうちに親しくなり、彼から告白を受けた。
遊びでも、たとえからかわれてるとしても別にいい。
私に声をかけてくれる男の子なんて全然いやしないんだから。
最初は信じられなかったけど、特に好きな男の子もいなかったし彼の容姿に惹かれたから、私はそれに応えた。
中学の頃からずっとテニスをやっていて、試合に勝つ事しか頭に無かった私を好きだと言ってくれる人なんて今まで一人もいなかったし、私も人を好きになった事なんて無かった。
その私が、男の子に注意を惹かれてしまった。まるで転落したかのように、謎めいた男の子との恋愛にはまってしまった。
もし彼と出会う前に他の男の子と付き合った経験があったら、こんなに虜になる事は無かったかもしれない。
彼氏がいないよりいる方が、友達と話が弾む。別れる理由が無いから付き合ってる。
今ではそんな怠惰な付き合いだった。
彼と私は教師と来客用の玄関前の廊下を歩いていた。
応接間と玄関を隔てるように、去年から変わったばかりの制服とトロフィーなどが展示してあるショーケースがある。
「今何か考えてただろ、俺のことかな」
彼はそう言うと女の子みたいに綺麗な目を細めて笑い、突き当たりにある保健室の前の階段を上り始めた。
「まぁね……」
その背中に返事を投げて私も階段を上る。
彼はすでに上りきって教室に入ったのか、それとも同じ格好をした男子生徒に紛れたのか、姿は見えなくなっていた。
階段には敷き詰めたように紺色の制服を着た生徒で埋まっている。
蟻の行列みたいだと私は思った。
三階にある教室へ入ると、丁度担任が出席をとっている時だった。
私は教卓の目の前にある自分の席に座った。太った担任は臨月に達したような、巨大なお腹の上から私を何か言いたげに見下ろした。
「あ〜っ夕美、ギリギリじゃない。休みかと思ったよ」
隣の席の千秋が、椅子に座る私に言った。
私は教科書を机の中に入れながら、自分の名前が呼ばれると返事をした。
今日は歴史と英語がある。資料と辞書は机の中には入りきらないので、体操服を入れて机の横に下げている袋に放り込んだ。
お腹が気になって押えながら動いていると、窓際に座っている彼と目が合った。
ブレザーを脱いだ彼はワイシャツに規則違反の白いトレーナーを着ていて、にこやかに手を振った。
(大丈夫だってば)
苦笑いしながら、私は小さく手を振り替えした。
体調が悪い事をアピールした日は彼の視線を良く感じる。私はプールの監視員みたいに行動を逐一チェックしているような彼が嫌だった。
心配してくれているのは解っていても、常に私と一緒にいようとする彼は監視しているみたいなのだ。
宮本君の落ち着いた眼差しは時に鋭い刃のように私を突き刺す。
彼は私にとって美しい監視者だった。
チャイムが鳴った。
それが合図のようにまた私のお腹はうねうねと動き出した。
退屈な午前の授業が終わり、私はわりと仲の良い友達とお弁当を持って一階まで下りた。
下駄箱から外に出ると、冷たい風が私の髪を跳ね上げて首筋に鳥肌を立てさせる。
「お腹すいたぁ」
そう言いながら、千秋は私より二倍はある弁当箱を広げた。
小柄で小顔の千秋は小動物みたいに可愛い。でも彼女は私よりよく食べるのだった。
私達はピロティーと呼ばれる石畳の広場で昼食をとる事を日課としていた。校舎と校舎の間にある為、風通しは良すぎるのだが昼休みには暖かい日差しが差し込んでいる。
「食べないの?」
自販機で買った紙コップを手にした馨が隣の石に座って言った。
「なんか先週辺りからさぁ、お腹が張っちゃって食べる気しないの」
「ストレス性の神経性大腸炎」
看護婦を目指す馨らしい物の言い方だった。馨は本で得た知識を乱用したがるのだ。
「ううん、別に悩んでなんかいないけど」
私がそう応えると、馨は怪訝そうに覗き込んだ。
不快なのは確かだ。
別にトイレに行きたいわけでもないので授業には出られた。でも、じっとしているとお腹の動きが気になる。
歩いたり、体を動かしている時はあまり気にしなくて済むのだが。
「今日は部活休むよ。アレそろそろ始まりそうだし、何か体調悪い」
「そう。練習試合入れない予定だし、いいよ」
馨はそう言って御飯を口に運ぶ。
テニス部の部長を務めている馨の、夏に焼けた肌は冬になっても浅黒いままだった。
私達はまだ二年生だが、三年はもう引退して二年生に任せていた。私は馨の右腕、副部長をやっている。
「宮本君に送ってもらいなよ。彼部活入って無いでしょ」
「うん……」
はっきりとしない私の返事に、馨は気付いた。
「……それにしても馨ってばフジュンだね。大丈夫なの」
「え、何が」
不純?それとも生理が不順っていう意味?
馨は口調がもともと強いのだが、彼女のさっぱりとした性格も相まって、私は一層痛いところを突かれた気持ちになった。
「ご馳走様でしたぁ〜」
黙々と食べていた千秋が弁当を片付け始めていた。彼女はおしゃべりなのだが、何かを食べる時だけは静かなのだ。
「ねぇねぇ馨ちゃん、彼がね、昨日ね、」
私と馨の会話は途切れ、千秋の滝のようなおしゃべりが始まった。適当に相槌を打ちながら馨はおかずを口に運んでいる。
私はおかずだけつまむと、箸を閉まった。
冷たい風が私の頬を過ぎる。
白い石の背もたれに背中を付けて見上げると、心細そうにかろうじて何枚かの葉が付いている木が立っていた。
(不順すぎて、いつが安全日かも解らないのよねー)
私は声に出さずに馨の問いに答えた。とにかく馨は宮本君との事を心配しているに違いなかった。
私のお腹の中はまだグルグルと蠢いていた。
私は帰りの掃除を放ったらかして女子トイレに駆け込んだ。トイレでも掃除は始まっていたが、私は構わず個室へ入った。
(うわぁ〜学校ではじまらないでよぅ)
だが意志に反して、ソレは始まっていた。
私はいつ始まってもいいようにポケットに常備してある物を下着にしいて、トイレを出た。
不思議な事に、痛みが出てきたらお腹の動きは止まっていた。あのお腹の不快感は生理が始まる前兆だったのかもしれない。
腰の痛みとか頭痛の他にこんな変な前兆もあるのかと思いながら廊下の洗面所で手を洗っていると、鞄を背おった宮本君が教室から出てきた。
私は彼に見られる前に顔を背けたが、遅かった。
「夕美、部活出ないんだってね」
私の体は強張ったが、ハンカチで手を拭く動作を止めなかった。
彼はまたあの得意な笑顔を見せて立っていた。口の両端にあるえくぼが、さりげなくその可愛さをアピールしている。
「うん……もう帰るつもり」
「じゃ、一緒に帰ろ」
彼は隠すように後ろへ回していた右腕を私の前に差し出した。彼の手には私の鞄が握られていた。
それを見て、得体の知れない寒気が突然私を襲う。
「……ありがとう」
私は彼の手から鞄を取って肩にかけた。
彼は優しい人で、気の利く男の子だ。だが、私にはそれがいささか強引だと思っている。
そうやっていつも彼のペースに巻き込まれるのだ。特にこれといって断る理由も無い時は承諾せざるを得ない。
それに、あの微笑。
絶対の自信を持ったような逆らえない魔力を秘めた彼の微笑みは、私にとってはもう彼の武器に思えていた。
多分変わってきたのは私だけなのだろう。彼は当初と変わらず私を大事にしてくれている。
心も体も、常に彼は私を求めるのだ。
「お前、顔色悪いぞ」
学校の敷地を出て駅へ向かう道を歩きながら、彼は言った。
「気持ち悪いの」
当たり前だ。血が次々と体の外に流れているのだ。貧血にもなる。
めまいだってするし、少し吐き気もある。どうせ男には酷い怪我を負わない限り解からないだろう。
気分の悪いまま電車に乗ったらどうなるか、安易に予想できる。
揺れが酷いと巷では有名な電車に乗る上、この時間は学生で満員だ。吐くに決まってる。人前でそんな醜態さらしたくもない。
でも、と私が言いかけた時だった。
「俺の家で少し休んでいけよ。今日全然食べてないんだろ、北山が言ってたぜ」
余計な事を、と私は馨を心の中でなじった。
「落ち着いたらタクシーで帰ればいいだろ。金出してやるからそうしろよ」
私は真っ直ぐ家に帰りたかったのだが、体は保ちそうにも無かった。彼は返事も聞かずに私の汗ばんだ手を握り、自分の家の方向に足先を変えた。
「俺がお粥でも作ってやるよ」
宮本君は、得意そうに言った。
私の部活が早く終わると、決まって彼は自分の家へ誘っていた。彼の家は学校近くの駅から三分程歩いた所にあったので誘いやすかったのかもしれない。
少なくとも最初は、そう思っていた。
初めて家に行った時は緊張して、家の人に嫌われないように礼儀正しくしなくてはと思った。が、入ってみると誰もいなくて拍子抜けした覚えがある。
彼は一戸建ての家に似つかわしくない、1人暮らしだったのだ。
私は遅くなっても帰って来ない家族についてあえて聞きはしなかった。
高校生が何故一人で家に住んでいるのか、考えはいろいろ膨らんでいったが、傷つける内容であるかもしれないと思って気にしないように努めた。
そのうち彼が話してくれるかもしれない、と思いながら。
何回も入り浸るうちに彼は私を抱きたがり、ありきたりの展開となった。
私にとっては初めての事だったが、彼は手馴れていて安心して身を任せられた。
そして、いつしか家に帰る前の習慣のように、私にとってそれが当たり前になっていた。
今日も、やるつもりなのだろうか。
手を握りながら私の横を歩く彼の顔を、私は恐る恐る覗き込んだ。
夕焼けの太陽が彼の茶髪を金色に照らして、うっとりするような美しさだった。
野性的な臭いがする男らしさがありながら、極めて繊細な顔のパーツ。
すれ違う女の子達が彼を見ている。彼は誰でも目を追いたくなる美貌なのだ。
そんな時私はいい気分になる。
でも、嫌いでは無いのに以前ほど胸が苦しくなるようなせつなさもときめきも無く、恋焦がれているとはお世辞にも言えない。
自分でも何故あんなに好きだった彼の束縛を嫌だと感じるようになったのか解からない。
だからますます罪悪感は募るばかりなのだ。
疑問を感じつつも彼に抱かれているなんて、恋愛上の行為じゃ無いかもしれない。
私の体には、焼印のように彼の感触が残っている。彼に触れられただけで、体はすぐに応じてしまうのだ。
私は自分の本能的な欲望を知っていた。
それが彼と付き合い続ける理由なのかもしれないと思うと、自分が汚らしく思うのだ。
彼は体調の悪い私に気を使って歩調を合わせて歩いていたが、特に会話は無いまま家に着いた。
それにしても、本当に気持ちが悪い。体が何かに拒否反応を示しているようで、胃から何かが込上げてくる。
そして、腹部に異物感があった。お腹の張りはますます酷くなってブレザーの上からでも解かる位、膨れては縮むの繰り返し。
家に上がると、私はまずトイレを借りた。
スカートを下ろし、上着をまくって私はお腹を見た。
妊婦のように膨れたお腹を見て、私は愕然とした。
皮膚が、腸の形通りに動いていた。
くねくねと何かが蠢いているようにも見えた。吐き気を催すその姿に胃液が逆流し、私の喉を焼く。
二日目でもないのに、出血は多かった。いや、二日目よりも、だ。
これは何なのだろう?
まるで私のお腹の中に何かがいるようだ。そんな筈は無いと思いながらも、何かが私のお腹の中で動いている。
私の皮膚を中から突付くように、お臍の下あたりがたまにでこぼこする。
妊娠して赤ちゃんが動くまでに育ったら、その胎動に母親は幸福を感じると聞いた事がある。
……妊娠?胎動?
私はそれを否定するように自分のお腹を罵った。
これは嬉しさの欠片も感じられない、嫌なモノだと。
(イヤ……何、何なの、気持ち悪い)
虫のようにもぞもぞと皮膚の下を移動しているのだ。鳥肌さえ立ち、気味が悪い。
「どうした、吐いてるのか」
一向にトイレから出てこない私を心配して、ドアの前に彼が立った。扉の上方についている曇り硝子の小窓から彼の頭が見える。
私はその個室から出にくくなっていた。
このお腹をどうにかして隠したいと思った。気分が悪い事を知っている彼は私を脱がそうともしないだろうが、それでも嫌だった。
そう、嫌なのだ。理由は解からないがこのお腹を削ぎ落としてしまいたい程に嫌悪している!
「……返事しないと、入るぞ」
私は驚いて咄嗟に鍵を確認した。鍵は閉まっているが強引な彼の事だ、蹴破ったりするかも知れない。
「今出るから……」
私はレバーを押して水を流し、そこを出た。
自分でも顔に血の気が無いのが解かった。冷たい雫が額に付いていた。
「横になれよ」
彼は私の腰を支え、ごく自然に耳たぶを吸う。彼の息がかかってくすぐったくなり、私は身をすくませた。
居間へ入ると私は彼を突き放して柔らかい長椅子に体を横たえた。
「口の中気持ち悪いだろ」
彼はリビングに続いているキッチンへ行き、水を汲んで戻ってきた。いつの間に脱いだのか、彼はブレザーを脱いでトレーナー姿だった。
私は重い瞼を無理矢理開けてゆっくりと起き上がり、グラスを受け取って水を飲んだ。
水は冷たくてひんやりとした感覚が喉を通り、胃袋に達するまで解かった。
その時、激しくお腹が動き出した。
「……やッ」
私は慌てて片手でお腹を抑えた。まだ水が沢山入っているグラスは傾いて制服を濡らした。
「痛いのか」
……ボコン、ボコン。
お腹は独立した生き物のように波打っている。
「あ、ご、ごめんね。急にアレが始まっちゃって……お腹痛くて」
(だから今日は出来ないよ)
取り繕って言ったが、半分は嘘ではない。彼はテーブルにあった台拭きで私のスカートを拭きながら言った。
「そうかぁ、先月は無くてお前気にしてたもんな」
……先月はこなかった?
そうだ。私はすっかり忘れていた。先月は生理が来なかったのだ。
不順だからたいして気に留めていなかったけど、思い当たるふしがあったからさんざんあの時は悩んだのだ。
彼は私がお願いしないと避妊してくれないから。
そんな事言いにくいのに、彼は強くお願いしないとしてくれない。
でも妊娠している筈は無い。現に受精卵を受け止めるはずであった子宮の壁が剥がれている。
「痛ッ」
私は体を丸めて蹲った。
胎児が蹴るようにお腹は動く。生理の痛みが増してくる。
台拭きをテーブルに放り投げて彼は言った。
「ちゃんときて嬉しいか、ほっとした顔して」
私はそんな顔をしたのだろうか。彼は何故こんな時に嫌味を言うのだろう。
だがそんな事を考えている余裕は消えていた。
鈍い痛みが激痛に変わってきているのだ。
「痛……痛いっ」
グラスは私の手からするりと落ち、絨毯に転がって水が零れた。そして、私もソファから崩れるように落ちた。
お腹を抱えて蹲る私を彼は立ったまま見下ろしている。
薄暗い部屋の中に、彼の赤い目がぼんやりと光っていた。
下着から血が溢れ出て、太ももを伝って紅い筋を作っていく。
おかしい。何でこんなに血が出てくるの?
「産みの苦しみだよ、味あわなくちゃ」
彼は棘とげしく言ったが、無邪気に子供のような笑顔で私を見ていた。
その顔が私には脅威的でとても恐ろしく見えた。
「何言ってるの……冗談やめて」
お腹の動きがぴたりと止まったかと思うと、今度は出口をこじ開け、内臓に何かが喰らい付いているような痛みが生じた。
私は悲鳴を上げた。
喰いついている!私の内側に!
何度となく彼の一部を受け入れてきたその道筋に、私は肉棒を感じた。
彼は目の前にいるというのに、触れられずに犯されているようだった。
私の髪は頬に張り付いていた。体中から汗が噴出している。
涙がボロボロと零れ落ちた。
「可愛いね……夕美」
彼は座って、私の額に軽くキスをした。彼の唇は首筋まで降りてくる。
大きな手をブレザーの中へ入れて私の胸を包み、握り潰すように揉む。
歯を食いしばって痛みに耐えているのに、私の下半身は麻痺して快感に震えていた。
「んん……ッ」
恥ずかしさに私は顔が赤くなった。
とろけるような甘い痛みを感じながら、私は薄目を開けて彼を見た。
彼は嬉しそうに薄笑いを浮かべて、今か今かと何かを待っているようだった。わくわくとしながら目を大きく見開き、瞳孔が開いているのがよく見えた。
何?何があるというの?
いや、腰が砕ける、お尻が……!
出ちゃう、出したくないのに、出てしまう…!
私は無意識に両足を開いていた。
骨盤をめりめりと軋ませ、ソレは膣への入り口をこじ開ける。
膣の入り口は肛門まで裂けた。
想像を絶する痛みに半ば狂乱し、私は言葉にならない叫びを上げていた。
「だ、ダメ……ッ、いや、いや、いやぁ……っあぁぁあ……」
ヌルリとした何かが、私の太股の間に挟まってからスカートの中にポトリ、と落ちた。
私の息は荒く、乱れていた。目に溜まった涙で視界がぼやけている。
痛みは消え、外へ流れ出た血の量に比例して段々と体が寒くなっていく。
脱力した私はぐったりとソファにもたれた。
天井からぶら下がっている、花の形をしたシャンデリアがまぶしく光っている。
私はスカートの中で何かが動いているのに気付いた。
生温かい糊のようなものと、毛糸のように細く固い物がワサワサと私の膝に触れている。
モゾモゾ、モゾモゾ。
それは確かに私のスカートの影で動いていた。
「この中だね」
静観していた彼はしゃがみ込み、当然のように私のスカートに手をかけた。
「や……いやっ、やめて、見ないで」
私は体を引きずってその場から逃れようとした。絨毯には黒々とした私の体液の染みが出来ている。
見たくない、見たくは無いの!
ガチガチと体が震え意識が遠のく中で、私は必死に拒否する。
だが、スカートの中からソレは引きずり出された。
蠢くソレは粘り気のある糸と私の血を彼の白いトレーナーに撒き散らす。彼は構わずに大事そうに両腕に包み込んだ。
「……ひッ」
目を閉じる瞬間に、私は見た。いや、彼は私にソレを見せようとわざと目の前に掲げたのだ。
おびただしい無数の小さな足が中を掻き毟るように動いている、赤黒く私の血に染まった細長いぶよぶよとした生き物を。
彼はソレに頬をすり寄せ、愛しそうにヌメヌメとした皮膚を撫でた。
「俺達の子供だよ……夕美」
泥のような深い眠りへと落ちていく私の脳裏に、彼の嬉しそうな声だけが響いていた。
《THE END》
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当作品を掲載しているHP
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