……かくてファルカン・ウッディア暦978年3月27日、自治都市サマルドゥーンは再びガランディウム神の傘下、ヴレード帝国領となったのである。
注目すべき人物の一人である、アヴァンクーザー北の分殿高司祭カールヴラット・クォーレルは囚われの身となった。
二人の若き信者の浅はかな罪により、サマルドゥーンにおけるアヴァンクーザー勢力はこれで潰えたのである。
彼はかつてサマルドゥーンを独立させたヴレード貴族ローハイム家の三男、レフィリムの血を引く男である。
その彼が奴隷として、祖父の故郷に帰るのだ。
運命とはかくも皮肉なものなのか。
ヴレード帝国がサマルドゥーンを短時間で陥落させた理由の一つに、「紅の結束」同盟国の到着が無かった事が挙げられる。
抵抗する気力すら失せる戦力しか無かったサマルドゥーンに、ヴレードの武力は偉大だったのだ。
その影に宮廷魔術師オメガの活躍がある事は周知の事実である。
セル・セアの森が半分程焼失した以外に市内の被害はほとんど無く、両国の死者は三千人足らずで済んだ。
「紅の結束」同盟国の制裁すら恐れぬ奇襲をかけ、圧倒的な強さを見せた皇帝カラジャルの勝利であった。
カラジャル皇帝は欲していたアラード港をヴレードの外交都市として、名をジャハールと改めた。
「船」という意味を持つ亡き先帝の名である。
このサマルドゥーン陥落は数日後には世界各国に知られる事となり、アヴァンクーザー圏に致命的な穴が空いた。
結界の薄い部分の臭いを嗅ぎ付けて魔族の出現が多くなり、各国は討伐に忙しくなっていったのである。
人々が神よりアストラルを賜る以前の、混沌とした時代が帰ってくるのだ。
「北のアストラル」は何処へ行ったのか?
権力の衰退を恐れたソリヴァーサ王国のアヴァンクーザー本殿は、サマルドゥーン陥落時に失われたアストラルの捜索に躍起になっていった。
さて、今や「常に環の外にいる者」オメガの力が試される時である。
彼女が存在する理由は、まさにここにあるのだ。
サマルドゥーンという名は歴史から消え、この史書も私が続きを描く事は無いだろう。
だが彼らの物語は続く。
英雄の子孫とテュニジアの少女との間にもたらされる奇跡の物語だ。
そう、これはあらかじめ約束された物語。
アストラルを取り込みその力と一体となった彼の死と共に、それは成就する。
サマルドゥーンのアストラルが分裂し、「彼ら」が二つの力を手にする時が。
運命の書が軌道を乱す事は無い。
彼がどうあがこうと、アヴァンクーザー神に祈ろうと、結果は変えられぬ。
何故なら、我々はそのように成る為に神に造られた生き物だからである……。